代表挨拶

獣医療と薬学の架け橋となり、真の「チーム獣医療」の実現と、人と動物が共生する豊かな社会へ

 私たちの社会において、動物たちはもはや単なる愛玩対象ではなく、かけがえのない「家族の一員」としての地位を確立しています。動物と暮らす喜びが人生を豊かに彩る一方で、その命を守る責任の重さもまた、かつてないほど増しています。獣医療技術の飛躍的な進歩により、かつては治療困難であった疾患にも光が当たり、動物たちの寿命は大きく延伸しました。しかし、その「長寿化」と「獣医療の高度化」は、同時に新たな課題を私たちに突きつけています。

 人医療と同様、現在の獣医療においても、抗がん剤による化学療法、慢性疾患に対する多剤併用、あるいは新規医薬品の導入など、極めて高度な薬学的判断が求められる場面が急増しています。しかし、現状の獣医療現場において、医薬品の専門家である「薬剤師」がその職能を十分に発揮できるシステムは、いまだ未成熟と言わざるを得ません。人医療では、医師、薬剤師、看護師がそれぞれの専門性を活かすチーム医療が確立され、処方鑑査や服薬指導によるダブルチェック機能が医療安全の要となっています。一方で、獣医療においては、診断から調剤、服薬指導までを獣医師が一人で担うケースが多く、業務の過重負担とともに、薬学的安全管理における構造的なリスクが潜在しています。また、薬剤師自身も、動物特有の生理学や薬物動態に関する教育を受ける機会が乏しく、獣医療貢献への意欲を持ちながらも、その一歩を踏み出せない現状がありました。

 こうした「獣医療」と「薬学」の間に横たわる深い溝を埋め、強固な架け橋となること。それこそが「一般社団法人 日本獣医療薬学協議会(JVPSC)」の設立使命です。私たちは、両領域の専門家が互いの知見を尊重し、融合させるプラットフォームとなることで、動物たちへの医療提供体制を根本からアップデートすることを目指します。

 本協議会では、定款に掲げた目的を達成するため、以下の3つを活動の柱として推進してまいります。

 第一は、「教育と認定」です。意欲ある薬剤師および獣医療従事者を対象に、体系的な研修プログラムを提供します。動物薬理学、関連法規、調剤実務などを網羅的に学ぶ場を創出し、一定の基準を満たした人材を認定することで、現場で即戦力となるプロフェッショナルを育成します。第二は、「情報のハブ化」です。動物用医薬品に関する情報は、人用の医薬品に比べて集約されておらず、現場の獣医師が情報の探索に苦慮することも少なくありません。私たちは、正確で信頼性の高い医薬品情報を収集・整理し、臨床現場の疑問に即座に応えられるデータベースの構築や情報発信を行います。そして第三は、「多職種連携の実践」です。獣医師が診断と治療方針の決定に専念し、愛玩動物看護師が動物と飼い主のケアに寄り添い、そして薬剤師が薬の適正使用と安全管理を担保する。この三位一体の連携こそが、私たちの目指す真の「チーム獣医療」です。

 また、私たちの活動は、単に動物病院の中だけで完結するものではありません。動物への抗菌薬の適正使用を推進することは、世界的な課題である薬剤耐性(AMR)対策に直結し、結果として人類の健康を守ることにも繋がります。これこそが、人と動物、そして環境の健康を一つとして捉える「ワンヘルス(One Health)」の理念の実践に他なりません。

 獣医療に薬学の知見を吹き込み、すべての動物たちが安全で質の高い医療を受けられる社会へ。そして、飼い主様が安心して愛犬・愛猫をはじめとする動物たちとの豊かな時間を過ごせる未来へ。私たちの歩みはまだ始まったばかりですが、志を同じくする多くの皆様とともに、この新しい学術領域を開拓し、社会実装していくことに全力を尽くす所存です。皆様の温かいご支援と、積極的なご参画を心よりお願い申し上げます。

一般社団法人 日本獣医療薬学協議会 代表理事 櫻井 浩子